書店員がおすすめの本を紹介するコーナー。 2024年1月号
アハメドくんのいのちのリレー
鎌田實著 ピーター・バラカン英訳 集英社 1800円(税別)
2005年、パレスチナの12歳の少年、アハメド君はイスラエル兵に撃たれて、脳死状態になりました。その臓器は、イスラエル人の子ども達に移植されました。アハメド君のお父さんは移植に際してものすごく迷い悩みましたが、「平和と平等を望む自分たちのメッセージが、みんなに届くように」という願いを込めて、移植を承諾しました。移植を受けた子どもの家族は、「感謝はしているが、パレスチナ人とは友達になれない」と言う人が多かったそうです。
そんな話を聞いた日本人医師の鎌田實さんは、自分に何かできることはないかと考え、いろいろなつてをたどって、アハメド君のお父さんと一緒に、アハメド君の心臓を受け継いだサマハという少女を訪ねる旅に出かけます。
イスラエルとパレスチナの二つの家族が、心を通わせ、溶け合って「家族」になっていく様子は、胸が熱くなります。日本人である著者の鎌田さんが、二つの家族の出会いの中に加わることで、喜びはさらに大きくふくれ上がったような気がします。
敵対する国や民族の間に立って、一見無関係に見える人達が果たす役割の大きさに、目が開かれました。この本は、美しい話であるとともに、厳しい現実を突きつけられる本でもあります。
「一粒の麦地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、もし死なば多くの実を結ぶべし」と聖書ありますが、死んだのはアハメド君の尊い命であると同時に、私達自身の中にある手放したくないもの、ずっと握りしめていたいもの(憎しみ・しがらみ・プライド・こだわりなど)に死ぬということなのかもしれない、と思いました。二つの家族は、「地に落ちて死ぬ」という選択をし、愛と平和と喜びという多くの実を結んだのだと思います。