書店員がおすすめの本を紹介するコーナー。 2024年5月号
いのちより大切なもの
星野富弘著 いのちのことば社 1,200円+税
星野富弘さんが、2024年4月28日にお亡くなりになりました。78歳でした。
中学校の教員をされていた20代の頃に、部活動中の事故で手足の自由を失い、神と出合い、それからは口に筆をくわえて、「詩画」と呼ばれる作品を描き続けてこられました。星野さんの作品の底には、小さく弱く取るに足りないと思われるような存在こそを、徹底的に愛してくださる「神」がおられます。
「神の愛」などと言うと、なんだかつかみどころがないもののようですが、私は、星野さんのアネモネの絵に添えられた詩に、星野さんの体験した「神の愛」があるのかなと思ったりします。
筆を嚙み砕きたいときがある
槍のように突き立てたいときもある
さまざまな思いが
風のように過ぎて
花を見ている(p18「筆を噛む」)
決してきれいごとではなく、甘いものでもない、「生きる」とは壮絶なものです。とまどいや怒りも抱え込んだ体まるごとで、神にぶつかっていく、「神の愛」はそれを受け止めてくれます。
私はけがをして、「死」と枕を並べて寝ているような時期もありました。でもこうして生かされて、今、いのちが与えられている。ですから、神様に「死ぬという仕事」を与えられるまで「生きるという仕事」をしっかりさせていただきたいと思っています。せっかく生かされたいのちです。しまい込まず、使い込んで良い味が出るまで、思い切り使っていきたいと思っています。(P64)
「生きるという仕事」と「死ぬという仕事」を誠実に尽くされた星野さんに、一読者として、こころいっぱいの感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。